「入れない案」とも比べる——問い合わせ管理ツールの要件一覧

ツールの選定で、いちばん時間を溶かすのは「デモを見てから考える」ことだ。ベンダーごとに見せ方が違うので、比べようがなくなる。

前回、共有メールアドレスの未返信を GAS で検知した話を書いた。その会社(約70〜80名が1つの共有アドレスに関わる)で、続きとして問い合わせ管理ツールの選定を進めている。4製品と「ツールを入れずに今の環境で改善する案」を、2週間で順に商談した。比べられたのは、商談の前に要件一覧を作り、全製品を同じ物差しで見たからだ。この記事では、その要件一覧の作り方を書く。

この記事でわかること

  • ▶ 要件に「優先度・根拠・確かめ方」をセットで書く理由
  • ▶ 共有アドレス運用の要件を7つの分類で整理した例
  • ▶ 「ツールを入れない案」も比較に入れる意味
  • ▶ 商談で確かめるべきこと、鵜呑みにしないこと

▼要件には「優先度・根拠・確かめ方」をセットで書く

要件一覧は、1行ごとに4つの列を持たせた。

列 中身
要件 何ができてほしいか(機能名ではなく、困りごとの裏返しで書く)
優先度 必須(満たさなければ候補から外す)/推奨(加点)/任意(判断材料にしない)/要確認(現場に聞かないと決められない)
根拠 いつの会議で、誰の、どの困りごとから出た要件か
確かめ方 商談で何を聞くか、画面で何を見るか

「根拠」を書くのは、優先度の議論を早くするためだ。「なぜ必須なのか」と聞かれたときに、「この会議でこういう事故があったから」と答えられる。「確かめ方」を書くのは、商談で聞き漏らさないためだ。デモはベンダーが見せたいものから始まる。こちらが確かめたいことを先に持っていないと、見せられたものだけで判断してしまう。

もう1つ、こちらから提案した要件は「提案」と明記した。現場から出た要件と、外部の目で足した要件を混ぜると、優先度の合意が取りにくくなる。

▼共有アドレス運用の要件を7つに分けた

実際の一覧は30項目近くになった。分類と代表的な要件はこうだ。

分類 代表的な要件(優先度)
受信・振り分け 共有アドレスを窓口のまま使える(必須)/各自のアカウントで同じ受信箱を見られる(必須)/転送の上限に左右されない(必須)/振り分けに漏れたメールが誰かの目に入る(必須)
対応管理 担当の割り当て(必須)/対応状況と返信者が一覧で見える(必須)/二重対応の防止(推奨)/未返信を Slack に通知(必須)
計測 返信スピード・返信数・未返信数をチーム・担当ごとに出せる(必須)
業務データとの紐付け メールごとに案件の URL を残せる(必須)/案件データベースとの自動連携(任意)
返信の効率化 テンプレートの共有と移行(推奨)/英語の画面(推奨)/AI の返信文生成(任意)
認証・セキュリティ 既存の IdP で SSO(必須)/IdP からアカウントの作成・停止(推奨・提案)/操作ログ(推奨・提案)/社内のセキュリティ審査を通る(必須)
運用・保守・移行 設定を管理画面で保守でき、特定の人に依存しない(必須)/試運転に間に合う(必須)/少人数から段階的に増やせる料金体系(必須)/やめるときに履歴を取り出せる(推奨・提案)

「任意」を作る勇気

AI の返信文生成は、どの製品もデモで見せてくる。だが現場からの要望はなかったので「任意」にした。判断材料にしない、と最初に決めておくと、デモの華やかさに引っ張られない。案件データベースとの自動連携も、API で自社開発が前提になるので「任意」にした。作った人が持ち主になる保守のリスクがあるからだ。

▼「ツールを入れない案」も、同じ物差しで比べる

比較表には、4製品に加えて「ツールを入れず、今の Google Workspace と GAS で改善する案」も入れた。

こうすると、ツールを入れて何が解決し、何が残るかがはっきりする。今の環境のままだと、転送の上限や同時ログインの制約、担当が見えない問題は残る。一方で、追加費用はかからず、運用も変わらない。「入れる理由」を、入れない案と比べて説明できることが、決裁を通すうえで大事だった。

▼商談で確かめること、鵜呑みにしないこと

確かめること

  • ▶ SSO は標準か、有料オプションか。オプション扱いの製品が多く、費用に響く
  • ▶ チームごとの閲覧制御のやり方。フォルダで分けられるのか、受信箱を分ける必要があるのか。受信箱の数が料金に響く製品がある
  • ▶ 共有アドレスの取り込み方式。転送か、POP か、パスワードで同期するのか。方式によってはセキュリティ審査で引っかかる
  • ▶ 送信の履歴がどこに残るか。製品の中で完結する方式だと、Gmail に送信履歴が残らなくなる。運用の変わり方が大きい
  • ▶ 最低契約人数と、途中での人数の増やし方

鵜呑みにしないこと

商談では、ベンダーが他社製品の弱点を説明してくることがある。「あの製品には二重対応を防ぐ機能がない」といった話だ。それはその会社の主張であって、事実確認はこちらでする。比較表には「先方の説明・未検証」と書き分けた。

▼まとめ

  • ▶ デモを見る前に、要件一覧を作る
  • ▶ 要件ごとに優先度・根拠・確かめ方を書く。提案した要件は「提案」と明記する
  • ▶ 「任意」を決めて、デモの華やかさに引っ張られない
  • ▶ ツールを入れない案も、同じ物差しで比べる
  • ▶ ベンダーの他社比較は主張。未検証と書き分ける
📄 この会社で未返信を GAS で検知した前編はこちらの記事で書いています。
📄 スタートアップで最初にそろえる IT ツールはこちらの記事でまとめています。

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