社内AI推進、どこから手をつけるか——ある会社の全社会議で出た論点まとめ
この記事でわかること
  • 全社AI推進会議でどんな論点が出るか(実録ベース)
  • 各部門がAI活用でつまずくポイント
  • 「完璧を求めない」「上流がボトルネック」など、実際に出た重要な認識
  • 情シスがAI推進でどんな役割を担うか

先日、あるスタートアップで全社的なAI活用推進に関する会議に参加した。法務・採用・エンジニアリング・ITの各部門が集まり、「どの業務をどこまでAIで自動化するか」を議論するものだ。

こういう会議の中身はなかなか外に出てこない。会社を特定できる情報はマスクした上で、議論の論点と各部門の取り組みをまとめる。AI推進を進めようとしている情シス担当者や経営者にとって、参考になる部分があると思う。

▼会議の背景と目的

この会社では「各部門が上半期末までに具体的なAI活用目標を設定する」という方針を決め、そのキックオフとして今回の会議を開いた。特に重点領域として設定されたのが以下の3つだ。

  • 請求書業務の80%自動化(法務・コンプラ)
  • 採用プロセスの効率化(人事・採用)
  • 開発標準化(エンジニアリング)

▼各部門の取り組みと論点

法務・コンプライアンス

やろうとしていること

  • 請求書業務の80%自動化(秋までに目処をつける)
  • 反社チェックの自動化(複数サイト横断の定型業務)
  • コンプライアンス相談の頻出案件に対するAI支援

法務領域で印象的だったのは「上流工程に最も時間がかかっている」という指摘だ。AIで処理できる部分(定型的な文書チェックや転記など)は自動化できても、「そもそも何を自動化すべきか」の業務整理と要件策定に工数がかかる。これは法務に限らず全部門共通の課題として会議でも認識された。

採用・人事

やろうとしていること

  • 面接メモの自動化(月150件規模・数十時間/月の削減目標)
  • スプレッドシートからSmartHRへの転記自動化
  • 通過ボタン押下時の自動メール送信など日程調整の効率化
  • AI面接の検討(技術テストへの活用)

採用部門は月150件規模という面接件数に対して、メモ作成に月数十時間かかっているという具体的な数字が出た。AIによる自動化の費用対効果が計算しやすい領域で、優先度が高いのは当然だ。

一方でAI面接については「日本の採用市場への適合性」という論点が出た。60分面接を40分+AI評価20分に分割に分割する案も浮上したが、候補者体験への影響を慎重に見極める必要があるという認識に落ち着いた。

エンジニアリング

やろうとしていること

  • AIレビュー・自動テストのチーム横断標準化
  • セキュリティルールの全社共通化(プロダクト特性はチームごとにカスタマイズ可)
  • 要件定義フェーズでのエージェント活用検討
  • AI効果測定のための生産性可視化

エンジニアリング領域で特に課題として挙がったのが「AI生成コードの品質ばらつき」だ。各エンジニアが個別にAIを使い始めた結果、コードの品質や書き方にばらつきが生じている。共通の知識ベースとルールベースを整備することで、品質を均一化しようという方向性になった。

IT部門(情シス)

やろうとしていること

  • 全社で扱えるAIツールのPOC・整備(期限を切って進める)
  • 禁止事項ルール・プロンプトテンプレートの公開
  • 各部門の自動化ニーズに対応できるツール・サービス提供体制の整備
  • 問い合わせ対応・アカウント配布などの定型作業を自動化し、より価値の高い業務にリソースを集中

IT部門の役割として会議で共通認識になったのは「ツールを提供し、ガバナンスを整える」という立ち位置だ。各部門が自分たちの業務に合ったAI活用を進められるよう、情シスはインフラとルールを整備する側に回る。

▼会議で出た重要な認識

論点の中で、特に印象に残った認識を3つ挙げる。

① 「完璧を求めない」

会議を通じて繰り返し出てきたのが「100%を目指さない」という話だ。AIは完璧ではないが、70%自動化できれば十分な価値がある。コーポレート部門もビジネス側のように「試行錯誤する姿勢」が必要、という認識が共有された。

💡 70%自動化を現実的な目標に設定する
「完全に自動化できないなら意味がない」という発想でAI導入を見送るケースは多い。しかし手動業務の70%自動化できれば、残りの30%に集中できる。まず「何を自動化するか」より「どこまで自動化するか」の基準を決めることが先決。

② 「上流がボトルネック」

AIツールの導入が進むにつれて、開発の下流(実装・テスト)は高速化しているが、上流(業務整理・要件策定)が詰まるという構造が顕在化してきた。これはエンジニアリングだけでなく、法務・人事でも同様のパターンだった。

「何をAIにやらせるか」を言語化する力が、AI推進の成否を分ける。

③ 「横展開の難しさ」

各人の業務が属人的なため、ある人がうまくいったAI活用が他の人に展開しにくいという問題も出た。典型的な業務から着手し、横展開できるパターンを作っていくアプローチが現実的という結論になった。

▼情シスとして感じたこと

この会議に参加して改めて感じたのは、AI推進における情シスの役割がインフラ整備からガバナンス設計に広がっているということだ。

ツールを選んで導入するだけでなく、「どのツールを誰が何の目的で使っていいか」「セキュリティ上の禁止事項は何か」「各部門の自動化ニーズにどう応えるか」——こういった設計まで担う必要が出てきている。

同時に、IT部門自身の定型作業(問い合わせ対応・アカウント配布など)を自動化して、より価値の高い業務に集中するという視点も重要だ。AI推進の旗振りをしながら、自分たちの業務も効率化していく。それが今の情シスに求められているんだと思う。

⚠️ AI推進でよくある失敗パターン
・ツールを入れただけで「AI活用している」と満足する
・完璧を求めすぎてPOCが終わらない
・上流(業務整理・要件策定)を後回しにして、下流だけ自動化しようとする
・横展開を急ぎすぎて、属人的な業務に無理やり同じ型を当てはめる

▼まとめ

AI推進は「ツールを入れる」フェーズから「業務プロセスを再設計する」フェーズに移ってきている。この変化に対応するには、情シスが各部門の業務を理解し、「どこをどこまで自動化できるか」を一緒に考える姿勢が必要だ。

完璧を求めず、上流から設計し、横展開できるパターンを作っていく——この3つが、AI推進を実際に動かしていくための原則だと感じた。

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