- ▶ 稟議システムの移行がコストだけの問題ではない理由
- ▶ ツール選定前に決めるべき3つの設計(スコープ・申請タイプ・ライセンス)
- ▶ 「システムに合わせて職務権限を変える」がなぜ本末転倒なのか
- ▶ 稟議システム移行前に確認すべきチェックリスト
「今の稟議システム、高くないか?」——そんな一言から始まるシステム移行プロジェクトは、情シスとして何度か経験してきた。コストが明らかに割高なら動くのは当然だ。
ただ、稟議システムの移行は思ったより沼だ。ある会社で実際にプロジェクトを動かしてみて、ツール選定に入る前に決めておくべきことがいくつかあると痛感した。この記事ではその話を書く。
▼ なぜ乗り換えを検討することになったか
きっかけはシンプルなコスト問題だった。現行ツールの費用をあらためて試算したところ、移行候補のツールと比べて約2.5倍のコスト差があることが判明した。機能的に大きな差がないなら、移行を検討しない理由がない。
加えて、支払いと稟議の紐付けが現状では管理しにくい構造になっていた。「この稟議に対してどの支払いが紐づいているか」を追いかけるのに手間がかかっていたので、それを改善したいという目的もあった。
① コスト削減(移行候補ツールは現行の約40%)
② 支払いと稟議の紐付け管理を改善したい
「これは決まりかな」という雰囲気が漂い始めたところで、話は複雑になっていった。
▼ 動いたら想定外の壁にぶつかった
移行候補のツールを本格検討し始めたタイミングで、外貨(USD)での購買申請に対応していないことが判明した。海外拠点との取引があり、USD建ての発注申請が発生するケースでは、そのツールを使うことができない。
「JP国内の取引だけ対象にすればいい」という考え方もあるが、そうなると海外拠点は別ツールを使うことになる。2システム運用になれば、ライセンスコストの二重負担・承認者のUX低下・IT管理コストの増加という問題が発生する。
- ライセンスコストが二重にかかる
- 承認者が複数ツールを使い分けることになりUXが下がる
- IT側の管理・運用コストが増える
「コスト削減のために移行する」はずが、要件を詰めていくと「グローバルツールと2ツールのどちらが最適か」という上流の議論に戻ることになった。
これは外貨対応という特殊な話ではなく、「ツール選定の前に決めるべき設計を後回しにした」ことで起きた話だ。
▼ 教訓:ツール選定前に決めるべき3つの設計
稟議システムの移行で詰まるパターンのほとんどは、ツール選定に入る前の設計が曖昧なまま進んでしまうことにある。具体的には以下の3つだ。
① スコープ設計(横軸):誰まで使わせるか
稟議システムを「誰に使わせるか」は、2つの軸で考える必要がある。
| 軸 | 考え方 | 例 |
|---|---|---|
| 組織の広がり | チーム単位か、部門か、全社か、拠点・グループ会社まで含むか | 国内のみ or 海外拠点含む |
| レイヤー | 一般社員まで使うか、リーダー・マネージャ層か、役員・部長クラスのみか | 全社員 or 承認権限者のみ |
このスコープが曖昧なままツール選定に入ると、後から「このレイヤーまでアカウントが必要だった」「海外拠点が使えない仕様だった」という問題が出てくる。
② 申請タイプ設計(縦軸):何の申請を載せるか
「稟議システム」という言葉でひとくくりにされがちだが、実態は申請の種類によって要件がかなり異なる。
| 申請タイプ | 特徴・注意点 |
|---|---|
| 稟議(意思決定) | 金額記載がある場合は外貨対応が必要なケースも |
| 購買申請 | 発注先・金額・通貨の管理が必要。外貨非対応のツールもある |
| 支払申請 | 会計システムとの連携が重要。通貨対応は要確認 |
| 汎用ワークフロー | 備品申請・入退社対応・作業依頼など。意外と多い |
「稟議だけ移行するつもりが、気づいたら汎用ワークフローも含めて全部見直しになった」というのはよくある話だ。最初に何を載せて何を載せないかを決めておくことで、ツールの要件が絞れる。
③ ライセンス設計:申請者・承認者・閲覧者は別物
これが一番見落とされがちな論点だ。
「全社員にアカウントを付与する」という運用をしている会社は多いが、本当に全員がアカウントを必要としているか、立ち止まって考えてほしい。
① 誰が「申請する」のか?
全社員が何かしら申請するなら全員必要。申請者が限られるなら絞れる。
② 誰が「承認する」のか?
承認フローに入る人だけでいい場合もある。
③ 誰が「見る」のか?
「透明性のために全員に見せる」は文化的な判断。「見せる必要がある人だけ」に絞るかはちゃんと議論する。
ライセンス数の設計次第で、月額コストは大きく変わる。「全員アカウント」が本当に必要かどうかは、移行前に一度ゼロベースで見直す価値がある。
▼ 職務権限が先、システムは後——これは絶対に守る
稟議システムの移行を進めていると、必ずどこかで「このツールだとこの承認フローが組めない」という場面に出くわす。そのときに「ツールに合わせて承認フローを変えればいい」という発想になる人が出てくる。これは本末転倒だ。
システムの制約に合わせて職務権限を変える
稟議・承認フローは会社のガバナンスそのものだ。「誰が何を承認できるか」は、会社の意思決定構造を定義している。それをツールの都合で変えてしまうと、内部統制が崩れる。
正しい順番はこうだ。
① まず職務権限表・承認フローを整理する
誰がどの種類の申請をどの金額まで承認できるか、を言語化する
② その要件を満たせるツールを選ぶ
要件に合わないツールは候補から外す。ツールに合わせて要件を変えない
③ ツールが要件を満たせない場合はツールを変える
「このツールではこの承認フローが組めない」→ ツール側を変えるのが正解
稟議システムの移行は「今より安いツールに乗り換える」作業ではなく、会社のガバナンス設計を見直す機会だ。その認識を持って進めないと、移行後に「あの申請フローはどこに行った?」という話になる。
▼ まとめ:稟議システム移行前チェックリスト
稟議システムの移行を検討しているなら、ツール選定に入る前に以下を確認してほしい。
- ☐ スコープ:国内のみか、海外拠点・グループ会社も対象か
- ☐ レイヤー:一般社員まで使うか、承認権限者のみか
- ☐ 申請タイプ:稟議・購買・支払・ワークフローのどれを載せるか
- ☐ 外貨対応:USD等の外貨建て申請が発生するか
- ☐ ライセンス:申請者・承認者・閲覧者のそれぞれの人数を把握しているか
- ☐ 職務権限表:現行の承認フローが言語化されているか
- ☐ 会計連携:支払申請を含む場合、会計システムとの連携要件を確認したか
コスト削減を目的に動き始めたプロジェクトでも、この設計を後回しにすると必ず途中で詰まる。ツール選定は、設計が固まってから始めるものだ。
▼ 主要5サービス比較:どれを選ぶべきか
設計が固まったところで、ようやくツール選定に入れる。現時点で検討に上がりやすい5サービスの特徴を整理した。料金は公開情報をもとにした目安値であり、実際の契約条件は各社への問い合わせで確認してほしい。
| サービス | 料金感 | 対象規模 | 承認フロー柔軟性 | 会計連携 | 向いている会社タイプ |
|---|---|---|---|---|---|
| Kickflow | 要見積(50ID〜、1,000〜1,500円/ID前後が目安) | 100名〜大企業 | ◎ 高い。複雑なフロー・条件分岐に対応 | △ 稟議特化のため会計連携は別途検討 | 承認フローが複雑な中堅〜大企業。上場準備中の企業にも実績多数 |
| バクラク申請 | 要見積(600円/ID前後が目安。支払申請等との組み合わせで変動) | 50名〜中堅企業 | ○ 標準的なフロー設計に対応。Slack連携が強み | ◎ バクラクシリーズ内で支払・経費・会計まで一気通貫 | バクラクで経費・支払まで統合したいスタートアップ〜中堅企業。ただし外貨購買申請は非対応 |
| SAP Concur | Standardプラン:月額29,000円〜。Professionalは要見積 | 中小〜グローバル大企業 | ○ 経費・出張管理に特化した設計。稟議の柔軟性はやや限定的 | ○ SAPエコシステムとの連携が強い | 海外拠点あり・多通貨対応が必要な企業。グローバル展開を見据えた会社に向いている |
| freee(会計) | ベーシックプラン:月額3,980円〜(3ユーザー含む)。稟議WFはエンタープライズプランに含む | 小規模〜中小企業 | △ 経費・支払申請中心。稟議の承認フロー設計は他ツールに劣る | ◎ freee会計との連携がシームレス。仕訳自動化が強み | すでにfreee会計を使っている小規模〜中小企業。バックオフィスをfreeeで統一したい場合 |
| マネーフォワード クラウド経費 | コーポレートプラン:+200円/ID。エンタープライズは要見積 | 中小〜中堅企業 | △ 標準的なワークフロー設定は可能。複雑なフローはやや苦手 | ◎ マネーフォワード会計・給与との連携が強い | マネーフォワードシリーズを導入済みの企業。経費精算との一元管理を優先したい場合 |
稟議の承認フローが複雑 → Kickflow
条件分岐・組織階層を細かく設定したい場合はKickflowが最も柔軟。上場準備中企業の採用実績も多い。
支払・経費・稟議を一元化したい(国内のみ)→ バクラク申請
バクラクシリーズで統合できれば管理コストが大幅に下がる。ただし外貨購買申請が必要な場合は注意。
海外拠点あり・多通貨対応が必須 → SAP Concur
グローバル標準ツールとして確立されており、多言語・多通貨に対応。コストは高めだが要件が合う場合は最有力。
すでにfreee / マネーフォワードを使っている → 既存の延長で検討
会計・給与との連携コストを最小化できる。ただし稟議の承認フロー設計に複雑な要件がある場合は別ツールも検討する。
上記の料金はあくまで公開情報ベースの目安値だ。ライセンス数・契約期間・オプション構成によって実際の金額は大きく変わる。必ず複数社から見積もりを取って比較すること。
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「稟議システムの移行を検討しているが、どこから手をつければいいかわからない」「職務権限表が整備されていない状態で進めていいか不安」——そういった段階からお気軽にどうぞ。
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