情シスがいない会社のセキュリティは、「対策不足」より「積みすぎ」で事故る。
ある支援先で、業務中にPCがフリーズするという相談を受けた。原因を一つずつ潰していって最後に行き着いたのは、セキュリティ製品だった。端末管理に一つ、ウイルス対策に別のもう一つ、それぞれ違うベンダーの製品が入っていて、そのどれかが業務で使う重めのアプリと干渉していたと見られた。
構成を見た瞬間に「これは重いな」と思った。ただ、担当者を責める気にはならなかった。情シスがいない会社では、これはむしろ”普通”に起こることだからだ。危機感のある経営者が、営業に提案されるまま製品を一つずつ積んでいった——その積み重ねの結果が、この構成だった。
本当の問題は、対策が足りないことじゃない。バラバラに積み上がっていることだ。そして解は、製品を一つ削ることではなく、一つの基盤に束ね直すことにある。この記事では、実際に自分がいま進めている移行をベースに、その考え方と具体的な手順を書く。
この記事でわかること
- ▶ 情シス不在の会社で本当に起きている問題は「何もしていない」ことではない
- ▶ 提案されるまま製品を積むと、コスト高・運用煩雑・業務干渉が同時に起きる
- ▶ バラバラの契約を Microsoft 365 Business Premium 1本に束ね直す考え方
- ▶ 束ね直すと守り(セキュリティ)だけでなくキッティングの効率化まで射程に入る
- ▶ 移行で必ず踏むハマりポイントと、その回避手順
▼「危機感はあるのに、何からやればいいか分からない」——これが情シス不在の会社の実態だ
情シスがいない会社のセキュリティというと、「何も対策していない会社」を想像するかもしれない。だが自分が実際に支援していて多いのは、その逆だ。
経営者にはむしろ強い危機感がある。「ランサムウェアが怖い」「うちみたいな規模でも狙われる」——そういう意識はしっかり持っている。だから何かしら製品を入れている。問題は、何から手をつければいいか判断できないまま、営業に提案されるものを一つずつ導入していった結果、こうなることだ。
- ▶ 契約が複数のベンダーにバラバラに分散している
- ▶ トータルで見ると割高になっている
- ▶ 誰も全体像を把握しておらず、運用が属人化・形骸化している
- ▶ ときに製品同士や業務アプリと干渉して、逆に業務を止めている
「対策が足りない」のではなく、「ちぐはぐに積み上がっている」。情シス不在の会社の本当の課題はこっちだ。今回は、実際に自分が移行を進めている会社の事例をベースに、この”ちぐはぐ構成”をどう束ね直すかを書く。
▼ある水処理系の会社で見た、ちぐはぐなセキュリティ構成
ある水処理系の会社。端末は30台ほどのWindows環境だ。ここに入っていたのは、こういう構成だった。
| 製品 | 役割 | 契約 |
|---|---|---|
| MaLionCloud | IT資産管理・端末管理(MDM寄り) | ベンダーA |
| RICOH Cloud MVB | ウイルス対策(アンチウイルス) | ベンダーB |
どちらも、選定して入れたというより提案されるまま入ったものだ。複合機や別のIT商材の流れで営業が来て、「セキュリティも」という形で乗った——このパターンは本当に多い。
そして決定打になったのが、業務アプリとの干渉だった。この会社はGISをはじめとする設計系のアプリを業務で使っている。ところが、セキュリティ製品がこの業務アプリに干渉していたと見られる挙動があり、作業中にPCがフリーズする事象が起きていた。
危機感はある。製品も入っている。お金も払っている。なのに、割高で、煩雑で、業務まで止めている。ここからどう立て直すか。
▼問題は「機能の被り」ではない。「バラバラに積んでいる」ことだ
一見すると「MaLionとウイルス対策で機能が被っているのでは」と思いたくなる。だが正確には違う。端末管理とウイルス対策は別のレイヤーで、この2つ自体は被っていない。
本当の問題は、別レイヤーの機能を、別々のベンダー・別々の契約で持っていることだ。2つの契約、2つの管理画面、2つの請求。全体を束ねる基盤がない。
ここでの解は、製品を1つ削ることではない。1つの基盤に束ね直すことだ。具体的には Microsoft 365 Business Premium に集約する。
| レイヤー | Before(バラバラ) | After(束ね直す) |
|---|---|---|
| 端末管理・MDM | MaLionCloud(ベンダーA) | Microsoft Intune |
| ウイルス対策・EDR | RICOH Cloud MVB(ベンダーB) | Microsoft Defender for Business |
| Office・メール | (別途) | Microsoft 365 に同梱 |
| 契約・管理画面 | 2ベンダー・2契約 | Microsoft 1本 |
Defender for Business は「ウイルス対策の置き換え」ではなく「格上げ」になる
ここは押さえておきたい。Business Premium に含まれる Microsoft Defender for Business は、次世代のウイルス対策(EPP)に加えてEDR(侵入後の検知・対応)まで備えている。従来型のウイルス対策ソフトは「侵入前に防ぐ」ところが中心だが、Defender for Business は侵入をすり抜けられた後の検知・対応・自動修復までカバーする。
つまり RICOH MVB を Defender for Business に置き換えるのは、単なる横移動ではなく守りのレベルが上がる移行だ。しかも Business Premium に標準同梱なので、この部分に追加コストはかからない。
▼守りだけじゃない。Autopilotでキッティングの非効率まで消える
束ね直しの効果は、セキュリティにとどまらない。この会社では、いまキッティングに1台あたり3〜4時間かけている。社内のサーバーからZoom、Adobe、設計系アプリを一つずつコピーして、手動でインストールしていく——という運用だ。30台あれば、それだけで100時間近い作業になる。正直、業務時間としてアホらしい。
Business Premium に集約すると、Intune の Windows Autopilot が使えるようになる。端末を箱から出して電源を入れ、ネットにつなぐだけで、必要なアプリと設定が自動で降ってくる状態に近づけられる。手作業のコピー&インストールから、ゼロタッチに寄せていける。
▼移行で必ず気をつけている「ハマりポイント」
いいことばかり書いてきたが、この移行は「契約を切り替えれば終わり」ではない。実際に進めていて注意しているポイントを、正直に共有する。
1. 既存のウイルス対策ソフトは、必ずアンインストールする
2. サーバーOSは別ライセンスが必要
Business Premium に含まれる Defender for Business はクライアント端末(PC)向けだ。社内にファイルサーバーなどのサーバーOSがある場合、そのサーバーの保護には別のライセンスが要る。「Premium にしたから全部守られる」と思い込むと、サーバーだけ穴が空く。移行前に、保護対象にサーバーが含まれるかを必ず切り分けておく。
3. 業務アプリとの干渉は、移行時にこそ潰す
そもそもの発端がPCフリーズだったように、セキュリティ製品と業務アプリの干渉は現実に起きる。移行のタイミングは、これを設計し直す絶好の機会だ。GISや設計系のような重い業務アプリについては、Defender / Intune 側で適切な除外設定やポリシーを検討したうえで展開する。「入れて様子を見る」ではなく「噛み合わせを設計してから入れる」。
4. ポリシー文書は、運用が固まってから作る
セキュリティというと最初に分厚いポリシー文書を作りたくなるが、情シス不在の会社でそれをやると、たいてい文書だけができて運用が回らない。先に「専任がいなくても維持できる運用」を Microsoft 基盤の上で固める。文書化はそのあとでいい。ポリシーより運用が先だ。
▼まとめ
- ▶ 情シス不在の会社の課題は「対策不足」ではなく「ちぐはぐに積み上がっている」こと
- ▶ 端末管理とウイルス対策は別レイヤー。問題は別々のベンダー・契約に分散していること
- ▶ Microsoft 365 Business Premium に集約すれば、Intune+Defender+Office を1契約に束ねられる
- ▶ Defender for Business はEDRまで含むので、従来のウイルス対策からは”格上げ”になる
- ▶ 2026年7月改定で Business Premium は据え置き。集約の費用対効果はむしろ上がっている
- ▶ Autopilotでキッティングの非効率まで消え、守りと効率化が地続きになる
- ▶ 移行時は「旧AVの完全撤去」「サーバーは別ライセンス」「業務アプリとの干渉設計」を必ず押さえる
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「セキュリティ製品は入れているけど、これで合っているのか分からない」「何から手をつければいいか判断できない」——そういった段階からお気軽にどうぞ。今の構成が本当に最適か、束ね直せる余地がないか、一緒に整理します。
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