情シスを引き継ぐと、前任から分厚い手順書を渡されることがある。ありがたい。だが、それが「今の環境」の手順書だとは限らない。
前任ベンダーから情シスを引き継いだ会社(30名規模、Microsoft 365・Intune)で、引き継ぎの資料として 275ページの IT 運用手順書を受け取った。日々の作業で使う章から順に読んできたが、残りの章(ID 管理、PC の復旧、退職者対応、各アプリ、停電対応、拠点、会議室、Web サイト)を今日まとめて読み、今の環境と1項目ずつ突き合わせた。食い違いと未対応が17件出てきた。この記事では、何がずれていたか、どう突き合わせたか、手順書をどう扱うことにしたかを書く。
この記事でわかること
- ▶ 前任の手順書と今の環境で、ずれやすい場所
- ▶ 手順書を読んで見つかった「期限が来るもの」と「前任に紐づいたままのもの」
- ▶ 手順書は直さず、今の手順に移して、ずれだけを一覧にした理由
▼出てきた17件を、4つに分けた
17件を並べると、性質の違うものが混ざっていた。対応の急ぎ方も違うので、まず分けた。
| 分類 | 例 | 急ぎ |
|---|---|---|
| 前任に紐づいたまま | ドメイン契約の連絡先メールが前任ベンダーのアドレス。停電前の機器設定のバックアップの保管先が前任ベンダーのクラウド。検索サービスの管理が、会社の管理外の個人 Gmail | 高 |
| 期限が来る | ある SaaS の SSO(SAML)の署名証明書が、来年1月に切れる。手で貼る方式なので自動では更新されない | 高(日付が決まっている) |
| 今の運用と食い違う | 「ファイル共有は移行済み」とあるのに、別の章では NAS に依存する業務(申請のマスターデータ、インストーラー)が残っている。LAPS について、冒頭は「ローテーションしない」、本文は「30日でローテーション」。ドメインの管理先の記載が whois と違う | 中(止める前に確認) |
| 書きかけ・古い | LAN 配線図の章が「記載予定」のまま空。退職時の各システムの担当者が2年前の名前。会議室の機器の管理画面が初期パスワードのまま、と書かれている | 低〜中 |
いちばん危ないのは「前任に紐づいたまま」
ドメインの契約の連絡先が前任ベンダーのアドレスだと、更新の案内やパスワードの再設定のメールが、前任ベンダーに届き続ける。契約が切れたあと、前任側でそのメールを誰も見ていなければ、更新漏れでドメインが失効することもありうる。手順書を読まなければ、この紐づきには気づけなかった。
停電前に取っていた機器の設定のバックアップが前任ベンダーのクラウドにある、というのも同じ種類だ。今は困らないが、いざ機器が壊れたときに「バックアップは前の会社のところ」では取りに行けない。
次に、日付が決まっているもの
SAML の署名証明書は、期限が切れた日にその SaaS へのシングルサインオンが止まる。今は困っていないので、誰も気にしていなかった。期限の前月に新しい証明書を作って貼り替えることにして、作業の予定に入れた。
手順書に、パスワードが平文で残っていた
手順書のいくつかのページには、パスワードや事前共有キーの実際の値が書かれていた。社内 Wiki に置かれた資料なので、誰が見られるかも確かめる必要がある。今の手順書(後述)には値を書かず、「管理シートを参照」とした。前任の手順書を引き継いだら、まず「秘密情報が書かれていないか」を見ておきたい。
▼どう突き合わせたか
275ページを頭から読んで直すのは現実的でない。次の順でやった。
- 日々の作業で使う章から先に読む。PC のキッティング、複合機、勤怠、基幹システムは、実際に作業する日に手順書を見ながらやり、その場で今の手順に書き直した
- 残りの章は、章ごとに「今もこの通りか」を確かめる。管理画面・whois・Intune の設定・過去の打ち合わせの記録と照らす
- 手順は今の手順書(自分たちの側)に移す。今はやらない手順(廃止した NAS への接続、旧 VPN など)は「現在は実施しない」と明記して残す
- ずれと未対応だけを、番号を振って一覧にする。それぞれに「次のアクション」を1つ書く
▼手順書は直さない。ずれの一覧を育てる
前任の手順書そのものを今の内容に書き直す、という手もある。だがやめた。理由は2つある。
- ▶ 書き直すと、前任が何を前提にしていたかが消える。「ここは前はこうだった」は、障害のときに効く情報だ
- ▶ 17件の一覧の方が、引き継ぎの残りとして管理しやすい。1件ずつ潰せば、引き継ぎの完了条件「手順書が今の運用と一致している」に近づく
以前、引き継ぎは「受け取った」ではなく「理解した」で確認する、という記事を書いた。手順書を受け取った時点では、まだ何も引き継げていない。今の環境と突き合わせて、ずれを1件ずつ自分の言葉で説明できるようになって、ようやく引き継いだと言える。
▼まとめ
- ▶ 前任の手順書は「ある時点の環境」の記録。今と1項目ずつ突き合わせる
- ▶ 急ぐのは「前任に紐づいたまま」と「期限が来るもの」
- ▶ 平文の秘密情報が残っていないかを最初に見る
- ▶ 手順は自分たちの手順書に移し、ずれだけを番号付きの一覧にして潰していく
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