- 情シスの仕事が、何も意識しないと「頼まれてから動く」だけになりやすい理由
- 情シスを採るとき、「仕事が速い・詳しい」より先に見てほしいこと
- AIが決まった手順の作業を代わりにやり始めて、情シスに求めるものがどう変わるか
- 面接で、自分から動ける人かどうかを見分けるための質問
情シス(社内のIT全般を見る担当)の採用を検討している経営者・マネージャーに、一度真剣に考えてほしいことがある。
「IT全般をお任せできる人」を探しているとき、多くの会社が無意識に「処理能力の高い人」を求めている。対応が速い、ツールの知識が広い、問い合わせに丁寧に答えられる——そういう人だ。
だが、それだけでは足りない。むしろ今の時代、それだけの人を採っても会社のITは本当の意味で強くならない。
先に結論を書く。情シスを採るときに見るべきは、「今のやり方に違和感を持ったとき、頼まれる前に自分から動けるかどうか」だ。面接では「頼まれていないのに動いた話」を聞けばいい。
▼受け身になりやすい理由:情シスの仕事のほとんどは「頼まれて動く」もの
情シスの仕事を思い浮かべてほしい。
- ▶ ヘルプデスク:社員からのITの困りごとや問い合わせに答える
- ▶ アカウント発行:入社した人が社内のサービスを使えるように、ログイン用のIDを作る
- ▶ PCのキッティング:新しいPCを、社員がすぐ使える状態に設定して渡す
- ▶ 業務サービスの導入:ネットで使う業務サービス(SaaS)を入れるときの設定や手配
- ▶ トラブルシューティング:不具合が起きたとき、原因を探して直す
これらはすべて、誰かから依頼を受けて動く仕事だ。
つまり、情シスという業務は構造的に「受け手」に設計されている。何も意識しなければ、自然と後手に回る。依頼が来たら動く、問題が起きたら対応する、それだけで1日が終わっていく。
これは担当者の能力の問題ではない。業務の構造がそうなっているのだ。
依頼をこなすことが仕事の目的になると、情シス担当者は「作られたレールの上を走ること」、つまり決められた手順を速く正確にこなすことばかりうまくなっていく。ヘルプデスクの対応は速くなる、キッティングも手慣れてくる——でも、会社のIT環境そのものは何も変わらない。
▼差が出るところ:違和感に気づいたとき、自分から動けるか
優れた情シス担当者とそうでない担当者の差は、処理の速さでも知識の広さでもない。冒頭に書いたとおり、違和感に気づいたとき自分から動けるかどうかだ。たとえば、こんな気づきだ。
「この申請の流れ、毎回同じミスが起きてるな。根本から変えた方がいいのでは?」
「使っているサービスが増えすぎて、アカウントの管理が追いつかなくなってきた。今のうちに、誰がどのサービスのアカウントを持っているかの一覧(台帳)を整備しよう。」
「辞めた人のアカウントが、使える状態のまま残り続けるリスクがある。人事と連携して仕組みを作らないと。」
どれも、誰かに頼まれた仕事ではない。こういう思考が自然に出てくる人は、依頼を待つのではなく、課題を見つけて先に動く。結果として、同じミスが繰り返されなくなり、誰がどのサービスのアカウントを持っているかが分かり、辞めた人のアカウントが残らない状態に近づいていく。頼まれた順に対応しているだけでは、ここには行き着かない。
▼AIが代わり始めた仕事:残るのは「何を変えるか」を決めること
「作られたレールの上を走ること」は、AIが得意とする領域になりつつある。繰り返しの問い合わせ対応、毎回同じ手順のアカウント発行、手順が決まっているキッティング——これらはAIと自動化(決まった処理を人の手を介さずに回す仕組み)の組み合わせで、かなりの部分が代替できる時代になってきた。
さらに言うと、AIは「レールを走る」だけでなく、「レールを設計すること」にまで踏み込んできている。仕事の流れの提案、どのツールを入れるかの比較、社内での情報の扱い方を決めたルール(セキュリティポリシー)の下書き——人間が時間をかけてやっていた仕事が、AIによって一気に出力できるようになった。
これは脅しではなく、現実として起きていることだ。決まった手順の作業をこなすだけの情シス担当者の価値は、今後確実に下がっていく。会社側も、採用前にこの現実を直視してほしい。
では、AIに代替されない情シスの価値とは何か。それは「現状を観察して課題を定義し、あるべき姿に向けて組織を動かせること」だ。AIはツールを動かせる。でも、その会社の事情を理解して「何が問題で、何を変えるべきか」を判断するのは、まだ人間にしかできない。
僕自身、支援先からのITの問い合わせへの回答案や、入社・退社のときのアカウントの準備は、AIに下書きさせている。ただ、それを送る・設定を変えるのは、今も自分が中身を確かめてからだ(AIに任せる範囲と任せない範囲は、こちらに書いた)。
▼面接で見ること:「頼まれていないのに動いた話」が出てくるか
では、面接でどう見極めればいいか。処理能力の高さではなく、能動性を見るための観点を整理した。
🔴 受け身型の情シス
- ▶ 依頼されたことを正確にこなす
- ▶ 問題が起きてから動く
- ▶ 「どうすればいいですか?」と聞く
- ▶ 現状維持が前提
- ▶ ツールの知識はあるが提案がない
🟢 能動型の情シス
- ▶ 課題を自分で見つけて動く
- ▶ 問題が起きる前に手を打つ
- ▶ 「こうした方がいいと思う」と言う
- ▶ 現状に違和感を持てる
- ▶ ツールの知識を提案に変える
面接で確認するなら、こういう質問が効果的だ。
- ▶ 「前職で、誰にも頼まれていないのに自分から動いた事例を教えてください」
- ▶ 「IT環境の課題を見つけたとき、どうやって経営陣や他部門を巻き込みましたか?」
- ▶ 「今の運用に違和感を持ったとき、あなたはどう動きますか?」
どれも、ITの知識がなくても聞ける質問だ。聞き取るのは技術の細かさではなく、頼まれて動いたのか、自分で気づいて動いたのかだ。
「依頼されたことをやりました」という答えが続くようなら、受け身型の可能性が高い。「こういう課題があると感じて、自分でこう動きました」という答えが自然に出てくる人を探してほしい。
▼まとめ:採用の基準を、処理能力から能動性へ
情シスという仕事は、構造的に受け身になりやすい。だからこそ、採用のときに「処理能力の高さ」だけで判断すると、会社のITは永遠に「作られたレールの上を走るだけ」になる。
AIが普及した今、レールを走ることはAIに任せればいい。人間の情シスに求めるべきは、レールが正しいかどうかを疑い、より良いレールを設計し、組織を動かせる人だ。
採用の基準を、処理能力から能動性へ。その一点を変えるだけで、情シスが会社にもたらす価値は大きく変わる。