📘 この記事でわかること
- ▶ 情シス代行を3〜4社掛け持ちする実務のリアル(稼働時間・タスク管理・コンテキストスイッチ)
- ▶ どの会社でも最初に出てくる共通課題のパターン
- ▶ 規模・業種による課題の傾向と、アプローチの違い
- ▶ 掛け持ちだからこそ支援の質が上がる理由
▼ はじめに:「掛け持ちで大丈夫なの?」
本業のIT部門に所属しながら、副業で3〜4社の情シス代行をやっている。
この話をすると、ほぼ確実に聞かれるのが「掛け持ちで大丈夫なの?」という質問だ。正直、大丈夫じゃない瞬間もある。ただ、掛け持ちだからこそ見える景色があり、それが支援の質を上げている実感もある。
この記事では、情シス代行を複数社やる中で見えてきた実務のリアルと、会社をまたいで共通する課題のパターンについて書く。情シスの外注を検討している経営者・総務の方に「実際こういう感じで回しているのか」と知ってもらえたら嬉しい。
▼ 実務のリアル:稼働と働き方
稼働時間と出社頻度
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 稼働時間 | 週15〜20時間(本業の業務時間外) |
| 出社頻度 | 各社月4回程度 |
| 基本スタイル | リモート中心。Slackやチャットで非同期対応 |
| 支援先の規模感 | 50〜200名規模のスタートアップ・中小企業 |
週15〜20時間というと「少なくないか?」と思われるかもしれないが、計画的に動けば十分回る。ポイントは、支援開始の1ヶ月以内に「何を・いつまでに・どこまでやるか」の目線合わせを済ませておくことだ。
支援開始時のタスク整理
どの会社でも、支援開始直後にタスクとスケジュールを整理して、先方と目線合わせをする。以下は、ある会社でMDM導入を支援したときのスケジュール例だ。要件定義からベンダー選定、検証、全社展開まで約6週間で組んでいる。
こうしたスケジュールを最初に引いて共有しておくことで、「今週何やってるんだっけ?」が発生しない。タスク管理ツールは会社ごとにバラバラ(Notion、Asana、スプレッドシートなど)だが、最初の1ヶ月で全体像を整理して目線を合わせるという進め方はどの会社でも共通だ。
コンテキストスイッチの現実
正直に言うと、コンテキストスイッチの大変さはある。ただし、業務の種類によってストレスの質が違う。
| 業務タイプ | コンテキストスイッチの負荷 | 理由 |
|---|---|---|
| セキュリティ設計・構築 | 低い | スケジュールベースで動ける。「いつ何を検証して、どこまでにどうなっていればいいか」を自分で主体的に決められる |
| ヘルプデスク・アカウント対応 | 高い | 突発的に発生する。状況把握→即座の対応力が求められる。A社のSlackを見ていたらB社から緊急チケットが来る、はよくある |
セキュリティ関連の方が頭は使う。ただ、自分のペースでコントロールしながら進められるので、精神的にはラクだったりする。逆にヘルプデスク系は内容自体は軽くても、突発対応が続くとスイッチングコストがじわじわ効いてくる。
▼ どの会社でも最初に出てくる共通課題
3〜4社を支援していると、業種や規模は違っても最初にぶつかる課題は驚くほど似ている。抽象化すると、2つに集約される。
共通課題①:仕組みがない
「誰でもその業務ができる状態」になっていない。つまり、属人化だ。
- ▶ ヘルプデスク:ナレッジが担当者の頭の中にしかない。FAQ的なものが存在しない
- ▶ アカウント管理:誰がどのSaaSのアカウントを持っているか、スプレッドシートで属人的に管理。退職者のアカウントが残っていることもある
- ▶ PCキッティング:手順書がなく、毎回「前やった人に聞く」方式
情シス不在の組織では、「とりあえず動いているからOK」の状態が長く続いてしまう。仕組みを作る余裕がないまま人が増え、どこかのタイミングで限界が来る。
共通課題②:あるべき姿の解像度が低い
概念としては知っている。でも、それが自社にどう落とし込まれるのかがわからない。
例えばセキュリティ。「ゼロトラスト」「EDR」「MDM」といった用語は聞いたことがある。でも、「うちの会社の場合、何から手をつけて、どこまでやればいいのか」が見えていない。
これは知識の問題ではなく、自社の現状と理想のギャップを埋める「道筋」が描けていないという問題だ。外部の情シスが入る意味は、まさにここにある。「御社の規模と状態だと、まずこれをやって、次にこれ」という具体的なステップを示せることが、最初の信頼獲得になる。
💡 最初の支援で意識していること
いきなり「あるべき論」を語らない。まず現状を棚卸しして、「今の状態」と「半年後に目指す状態」のギャップを可視化する。ギャップが見えれば、やるべきことの優先順位は自然と決まる。
▼ 規模・業種で出やすい課題パターン
100名前後:兼任の限界とカオス化
50名くらいまでは、総務やエンジニアの誰かが兼任で情シス業務を回せる。しかし100名前後になると、兼任のリソースでは物理的に回らなくなる。
しかも兼任だから、「目の前の対応」で手一杯で、仕組みを作るところまで考えて動けていない。結果として、ヘルプデスクは場当たり的、アカウント管理は誰かの個人作業、セキュリティは後回し——という状態がかなり多い。
「困っているけど、何から手をつければいいかわからない」というフェーズの会社が、情シス代行を検討し始めるタイミングだ。
営業会社(不動産・人材系):リテラシー教育よりシステム制御
業種によってアプローチは変わる。特に不動産や人材紹介など、いわゆる営業会社の場合、社員一人ひとりのITリテラシーを一律に信用しきれない現実がある。
こういう組織では、セキュリティ研修を通じたリテラシー向上よりも、「システム側でできる/できないをカチッと制御してしまう」方が現実的だ。
- ▶ Googleドライブの外部共有制御:共有ドライブの権限設計で、そもそも外部に出せない構造にする
- ▶ Google WorkspaceのAPI・外部アプリ制御:OAuth接続を管理者承認制にして、野良アプリを防ぐ
- ▶ Chrome Enterpriseによるブラウザ制御:アクセス可能なサイトやダウンロード制限をポリシーで管理する
「教育で変える」よりも「仕組みで防ぐ」。この判断ができるのも、複数社を見てきたからこそだ。
▼ 掛け持ちだからこそ活きること
「掛け持ちで大丈夫なの?」という冒頭の質問に戻ると、大丈夫かどうかは正直ケースバイケースだ。ただ、掛け持ちだからこそ支援の質が上がっている部分が明確にある。
共通SaaSのナレッジがそのまま横展開できる
Google Workspace、Slack、Zoom、Microsoft 365、PC関連全般のトラブルシューティングや業務手順のノウハウは、どの会社でも利活用できる。
1社目で作ったキッティング手順書は、2社目でも活かせる部分が多い。Slackのワークフロー設計も、会社ごとに微調整はあるが、ベースは同じだ。掛け持ちすればするほど、こうした「再利用可能なナレッジ」が蓄積される。
セキュリティ提案で「他社事例」を具体的に示せる
セキュリティ周りの提案をするとき、最も効果的なのは「近い業種/規模の会社ではこういう背景/考えでこう実施したが、それを試してみるのはどうか?」という具体例を示すことだ。
例えば、Macが多い組織でJamf Proの導入を提案するとき。「MDM入れましょう」だけだと先方は何から手をつけていいかわからない。掛け持ちで複数社やってきた経験があると、こう伝えられる。
「近い規模の会社だと、まずデバイスの登録と台帳化、あとFileVaultの強制だけ入れるところから始めてます。これだけなら社員への影響もほぼゼロなんで。そこが安定したら、次はゼロタッチキッティングとアプリの自動配布を入れて、キッティング工数を減らす。で、最終的にChrome Enterpriseのブラウザ管理とか、構成プロファイルでOSレベルの制御をかけていく——という感じで、2〜3ヶ月かけて段階的に進めてたりしますね」
| フェーズ | やること | 社員への影響 |
|---|---|---|
| Phase 1 まず入れる | デバイス登録・台帳化、FileVault強制、パスコードポリシー | ほぼなし |
| Phase 2 運用を楽にする | ゼロタッチキッティング、ソフトウェアアップデート強制、必須アプリの自動配布 | 小さい(楽になる方向) |
| Phase 3 統制を効かせる | 構成プロファイルでOS設定制御、Chrome Enterpriseのブラウザ管理、EDRの一括配布 | 制約が増える(説明が必要) |
こういう段階を「他社でやった実績」として示せると、先方の意思決定が圧倒的に早くなる。「Phase 1は影響ゼロだからすぐ始められる」「Phase 3は社員への説明が必要だから少し時間をかける」——この温度感は、1社だけやっていたら出せない。
掛け持ちは大変だが、「A社の経験がB社に活き、B社の経験がC社に活く」というサイクルが回り始めると、支援の質もスピードも上がっていく。
▼ まとめ
- ▶ 情シス代行の掛け持ちは、計画的に動けば週15〜20時間で3〜4社を回せる
- ▶ 支援開始1ヶ月以内にスケジュールとタスクを整理し、目線を合わせるのが最重要
- ▶ どの会社でも最初に出てくる課題は「仕組みがない」と「あるべき姿の解像度が低い」
- ▶ 100名前後で兼任が限界を迎えるパターンが多い。営業会社はリテラシー教育よりシステム制御が現実的
- ▶ 掛け持ちだからこそナレッジの横展開と他社事例の提示ができ、支援の質が上がる
情シスの外注に対して「掛け持ちで大丈夫?」と不安に思う気持ちはよくわかる。ただ、掛け持ちだからこそ持っている「複数社を横断して見てきた視点」は、1社専任では得られない価値だ。その視点を、目の前の会社のために使う。それが情シス代行という仕事の面白さだと思っている。